麻薬のようなカメラ。




撮像素子 1/1.7型 第5世代スーパーCCDハニカムHR 有効630万画素
静止画時最大記録解像度 2848×2136pxないし3024×2016px
動画時最大品質 640×480px / 30fps
レンズ 36-108mm相当 / F2.8-5.0 FUJINON銘 約3倍ズームレンズ
マクロ時最短WD W端 5cm 〜 T端 30cm
ISO感度 80〜1600相当
測光 TTL256分割測光
測光タイプ マルチ / スポット / アベレージ
露出制御 プログラムAE / シーンポジション / 絞り優先AE / シャッタースピード優先AE
露出補正 ±2.0EV / 0.3EVステップ
ホワイトバランス オート / プリセット6種 / マニュアルセット
内蔵フラッシュ最長到達距離 ISO AUTO時 6.5m
液晶 2.5型15.3万画素TFTカラー液晶
光学ファインダ なし
入出力 USB2.0(HighSpeed) / ビデオ出力
電源 専用リチウムイオン(3.6V 1950mAh) / ACアダプタ(添付)
寸法 92.0×58.2×27.3mm
重量 約200g(メモリーカード・バッテリ含む)


 2005年3月に発売され、コンパクトデジカメの中でも少数派であったISO800以上の撮影感度をウリにしたことでベストセラーとなったFinePix F10の後継機種。液晶解像度のアップと高感度時のノイズをさらに低減するなど、F10をベースとしたブラッシュアップ機である。
 最大の特徴はやはりなんと言ってもISO1600までゲインアップできる「高感度撮影」。撮像素子である「第5世代スーパーCCDハニカムHR」と画像処理エンジンである「リアルフォトエンジン」の合わせ技により、高感度時のノイズを低減するというもの。実際、そのノイズの少なさはコンパクトデジカメとしては最高レベルのものだ。
 とはいえ、レンズは36-108mm / F2.8-5.0のごく一般的な3倍ズームレンズ。マクロはワイド端で最短5cm、テレ端で30cmとごく平凡。CCDと画像処理エンジンを除いたスペックは凡庸を通り越してローエンドレベルだ。実際、FinePix F10からCCDを通常の正方画素タイプに換装し、ボディを一新したようなスペックでFinePix F460というローエンド機が発売されている。

■手ぶれ・被写体ぶれ抑制
 最大のウリである手ぶれ・被写体ぶれ耐性だが、これはISO感度をAUTO設定にした際に最もその効果を発揮する。通常のコンパクトデジカメではISO感度をAUTOにした場合、せいぜいISO200までしかゲインアップしないのに対し、このシリーズではISO800までのゲインアップを行う。しかもいとも簡単に。
 というのも、このカメラの露出アルゴリズムはとにかくぶらさない事を前提に作られており、ワイド端でもあらゆる場面でシャッタースピード1/60s以上、つまり「1/焦点距離 秒×2」を確保するように努めているためだ*1。1/60sを下回った場合は容赦なくISO感度をアップしてシャッタースピードを稼ぎにかかる。ちなみにこのシャッタースピードは、主にCanonのコンパクトデジカメでフラッシュを発光させた際のシャッタースピードに相当する。
 そのため、このデジカメを使用している限り、普通のデジカメなら手ぶれ・被写体ぶれをおそれてフラッシュを発光させるか、撮影を諦めるような場面でも、ノーフラッシュで撮影が行えるのである。この点についてはまさしく「革命」と言えるだろう。
 しかし逆に言えば、「しっかり構えていれば手ぶれしない場面でもラフに撮れる」ということでもある。ラフに撮れる、と言うことはすなわち「考えながら撮る」ということを忘れることにもつながり、撮影者をどんどん堕落させる。これが表題につけた「麻薬のようなカメラ」の意味である。

■操作性
 ハイエンド機を除くFinePix全般に言えることだが、このカメラは操作性が悪い。
 特に、露出補正ひとつしようにもメニューの中域までボタンを押下しなければならない(具体的には初期状態から4回のボタン押下)。意図通りの露出で撮ることがかなりおっくうになる。ホワイトバランスも同様だ。
 そうかと思えば十字キー[↑]に液晶輝度を最高にする設定が割り振られている。変人窟のたびさんによれば、ハイアングル時の視認性向上に役立つ(12/04)らしい。後述するが、品質の悪い液晶を載せたことをそんな事でカバーするのであれば、最初からオリンパスクラスの液晶を載せておくべきだろう。そもそも、そんな使用頻度の低い機能を操作第一層に割り振っている意味は薄いといわざるを得ない。[DISP]ボタン長押しで十分だ。今からでも遅くはないので、ファームアップでぜひここに露出補正を割り振っていただきたい。
 ちなみに[F]ボタンは記録解像度・ISO感度フォトモードの3つが入っている。つまりフィルム的な設定はここに納められていると言うことであり、フィルムメーカーらしい思想だが、正直言って運用面での意味は低い。CanonのFUNCTIONボタン、リコーのADJボタン、、カシオのEXボタンのように、ここに露出補正やホワイトバランスを入れてくれた方がユーザビリティ向上につながる。
 とはいえ、もともとFinePixの主要顧客は主に「メカにうとい」とされている女性であり、フジがこんなニーズに応えたりすることはありえないのだが……。

■背面液晶
 FinePixは代々、液晶にかけるコストをできるだけ抑えているようにみえる。ほとんどの機種で視野角が狭く、また青被りがしている。F11もご多分にもれず品質が悪い。これは他の大型液晶機と見比べてもはっきりと言える。
 デジカメメーカーで液晶品質に力を入れているのはオリンパスソニーであり、とくにオリンパスのハイパークリスタル液晶は視野角が160°ちかく確保されており、キヤノンのようにわざわざ可動型液晶にしなくても十分な視認性を保っている。
 そろそろフジはFinePixの液晶品質の向上に力を入れてほしい。ハイアングル時の視認性向上といった特殊用途ではなく、ごく一般的な、たとえば隣の人といっしょに写真を見れるくらいの視認性は確保していただきたい。

■バッテリ
 バッテリは3.6Vの1950mAhタイプ。これは、かつて「原子力充電池」とよばれたリコーのDB-43*2に近いスペックである。スペックだけではなく形状もほぼ同一。しかもDB-43を入れてもF11は起動する。つまりこの2つはほとんど同一品なのである。えーっとつまり、FinePix F10/F11のバッテリがよくもつというのは、リコーユーザー的に「何をいまさら」だったりするわけだ*3
 もちろん、実際よくもっている。累計300枚を越えた段階で電池目盛りは1つしか減っていない。充電するのに「オーパーツ」とよばれるアダプタを接続しなければならないのは若干不満だが、これだけよく持てばこの程度のトレードオフは許せるだろう。

■画質
 高感度をウリにしたデジカメだが、最低感度時の画質も特筆に値する。解像力が高く、非常に風景向きの描写だ。広角でないのが悔やまれるほど。E510のレンズを持ってきていただきたいくらいだ。光学系違うけど。
 発色はF-クロームを推奨したい。デフォルトのスタンダードは階調のつながりがよいのだが、発色がフジにしては今ひとつはっきりせず、濁っている。正直言って、今のコンパクトデジカメのCCDに過度の階調を求めるのは酷だ。しかもこのカメラに載っているのはスーパーCCDハニカムSRではなく、HRなのである。コントラストが高くなりすぎる傾向にはあるが、F-クロームで運用することをおすすめしたい。

■挙動
 起動・終了・レリーズタイムラグ・撮影間隔・メニューの応答、いずれも優秀。強いて言えば再生時のコマ送りが若干もたつく程度だが、他機種に比べてそう遅いわけでもない。メニュー配置はストレスがたまるが、十字キーなどの応答は速いのでそこは救われている。メモリーカードへの書き込みも比較的速い。

■総合
 根本的にカメラの質がフルオートに徹しており、押してポンでのパフォーマンスは他機種の群を抜いている。ただ、フルオートの範疇外のことをやろうとするととたんに撮影者にストレスを強いるカメラになるため、絞り優先/シャッタースピード優先が使用できるからと言って、過度な期待は禁物である。市場価格4万円台ではあるが、高感度耐性を除いた部分ではローエンド機の性質だからだ。
 それで満足できるかどうかは使用者しだいだが、性質を見極めて使用するならこれほど頼りになるメモカメラも無いだろう。普段使いの「ケ」に徹したカメラである。

■余談

  • 実は開放F値はちょっと絞り込んだ数値。室内など光量が少ない場所でシャッターを半押ししてみるとわかる。AF時光量かせぎのために開放しているようで、これがシャッター半押し時のフリーズに繋がっている模様。
  • ぱにぽにだっしゅ!第8話の「マジカルデジカメ」はどうみてもFinePix F10です。本当にありがとうございました。

*1:1/60sよりシャッタースピードが下回ると手ぶれ警告が表示される。

*2:G4Wide〜GX8まで使用された専用リチウムイオンバッテリ。3.7V・1800mAh。

*3:なお、このバッテリはFinePix M603のオプション品として用意されていたものでもある。