PMA 2004 で発生した画素数逆転現象(画素数≠画質)

 たとえば今日ご紹介した DiMAGE A2 の CCD は 800 万画素ですが、昨日発表のあった α-7 DIGITAL の CCD は 600 万画素です。つまり、デジタル一眼レフとその下位に位置しているはずのコンパクトデジカメでは、素数が逆転しているわけです。OLYMPUS の場合はさらに開きがあり、CAMEDIA C-8080WideZoom は 800 万画素ですが、デジタル一眼レフの E-1 は 500 万画素。
 「画素数が多くなればそれだけ綺麗に写る」というステレオタイプの認識を持っていると、「なんで一眼レフのほうが画素数低いの?」という疑問が発生するでしょう。id:metalgrey さんや id:tengsama さんがそれに気づいておられますね。
 まず一つ決定的な事項があります。それは「画素数=画質」ではないということ。
 一般的なデジタル一眼レフで使われている受像素子*1のサイズは APS-C サイズと呼ばれるもので、対角が約 1.8 インチになります。それに対し、今回発表のあった 800 万画素機の CCD の対角は約 2/3 インチ。面積比で 4 倍以上の差があります。E-1 発表時のこの画像をご覧になればイメージがつかめるかと思います。
 ここで重要なのは、1 画素 1 画素の大きさ(画素ピッチ)です。もし仮に APS-C サイズ CCD と 2/3 型 CCD が同じ画素数だった場合、当然 APS-C サイズ CCD のほうが大きくなります。そして一般的に画素ピッチが大きければ大きいほど画質が良いとされているのです。
 やや極端な例を挙げましょう。OLYMPUS E-1(4/3 型 500 万画素 CCD)とOLYMPUS X-2(1/1.8 型 500 万画素 CCD*2。C-50Zoom は X-2 の海外名)の各サンプルをご覧下さい。画像のクリアさが全く違うのがおわかり頂けると思います。特にシャドウ部(暗部)にあるノイズの量が圧倒的に違います。
 この差を生んでいる要素にはいくつかあります*3が、その中に画素ピッチの差があります。具体的な数値を挙げると、X-2 の画素ピッチは 2.7 μm ですが、E-1 は 6.84 μm。ちなみに α-7 DIGITAL に搭載されると思われる APS-C サイズ CCD の画素ピッチは 7.38 μm、DiMAGE A2 の 2/3 型 800 万画素 CCD は X-2 と同じ 2.7 μm。
 ここで CCD の仕組みが絡んできます。CCD の仕事は「光を電荷に変える」ことです。デジカメ内部の CCD はシャッターが開くと光を受け止め、受け取った光の量に応じて電荷に変えていき、蓄積します。露光が終わってシャッターが閉じられると、それぞれの画素に蓄積された電荷を信号として伝送し、画像処理エンジンに渡されます。
 ここでまず重要なのは、それぞれの画素には蓄積できる電荷の量が決まっているという事です。画素ピッチが小さければ小さいほど蓄積できる電荷の量は少なく、逆に画素ピッチが大きければ大きいほど蓄積できる電荷の量が多くなります。電荷量はそのまま信号になりますから、画素ピッチが小さければそれぞれの画素から得られる信号は微弱になるわけです。これが CCD の感度になります。そして感度はいわゆる「ISO感度」に繋がります。
 CCD の感度があまりにも低い場合、その信号を増幅してやる必要があります。そうしないとシャッタースピードが遅くなり、簡単に手ぶれしてしまうからです。まともな ISO 感度に増幅するにはアンプが必要になりますが、困ったことにアンプはノイズも増幅してしまうのです。CCD から出力される信号はアナログ信号ですから当然ノイズが発生します。それを増幅してしまうので、ノイズが目立ってくるわけです。これをゲインアップノイズと言います。
 またそれぞれの画素が蓄積できる電荷の量は決まっています(飽和信号量)。つまりこの設定量を超えた電荷は蓄積できず頭打ちになります。明暗差の激しい場面(たとえば逆光シーンなど)を撮影した場合*4

  • 暗いところでは光の量が少ないため、シャッタースピードを長くして電荷を多く集めようとしますが、
  • 逆に明るいところでは光の量が多すぎるため、多くの画素で蓄積された飽和信号量に達してしまいます。

 飽和信号量を超えた電荷を蓄積できないと言うことは、そこで信号が MAX になってしまう=真っ白になってしまいます。これが一般に言われる「白飛び」です。つまり飽和信号量が小さければ小さいほど白飛びしやすくなるということです。そして飽和信号量は画素ピッチによって決まります。
 以上の事から、CCD の画素ピッチが小さくなれば

  • 感度が低くなり、ゲインアップノイズが顕在化する
  • 明暗差の激しい場面で簡単に白飛びする

 と言うことが分かります*5。逆に言えば CCD の画素ピッチが大きくなればなるほど感度が高くなり、白飛びしにくくなるわけです。画素ピッチが大きくなれば画質が良くなるのはこの為です。
 つまり。高い画質を要求されるデジタル一眼レフでは画素ピッチの大きい APS-C 600 万画素 CCD や 4/3 型 500 万画素 CCD を使用し、そこまでの画質を求められないコンパクトデジカメでは 2/3 型 800 万画素 CCD や 1/1.8 型 500 万画素 CCD を使用しているわけです。
 ではなぜコンパクトデジカメでも APS-C サイズの CCD を使用しないのでしょうか。そうすれば画質が良くなることは分かっているのに、あえて小さい CCD を使用する理由はなんでしょうか。
 一つにはデジカメのサイズを小さくできるというメリットがあります。CCD を小さくすればそれだけレンズを小さく作ることができ、結果的にデジカメのサイズが小さく作れます。最近の PENTAX Optio S や CASIO EXILIM ZOOM などでは 1/1.8 型より一回り小さい 1/2.5 型が使用されています。
 またレンズを小さく作れるということは、本来なら大きいレンズも小さく作れると言うことです。OLYMPUS C-730UltraZoom や KONICAMINOLTA DiMAGE Z1 などの 10 倍ズーム機では 1/2.7 型の CCD を使うことで、フィルムカメラなら一升瓶サイズになってしまう望遠レンズを、頑張ればコートのポケットに入るくらいの大きさにまで小さくすることができています。
 さらにコストの問題があります。CCD に限らず半導体の面積はコストに大きく影響します。CPU のプロセスルールがどんどん微細化しているのは、面積を小さくしてコストを低くすると言う目的があるためです*6。CCD も同じで、小さくすればするほど安く作れるわけです。それがデジカメ本体の値段にも千円単位で影響が出てくると言われています。
 であれば。もう一つの疑問が出てきます。ここからが問題なんですが、「ではなぜ同じ CCD サイズで画素数をアップするのか。画素数をアップすればそれだけ画素ピッチが小さくなり、画質が低下するはずなのに」。これは民生用デジタルカメラというものが出た直後からある「画素数=画質」の概念がいまだに信仰されているからです。
 確かにデジカメの画素数が 100 万くらいだった時期は、まだ「画素数=画質」だと言えました。これにはまずそもそもの CCD サイズが大きく*7、多少画素数を上げて画素ピッチを小さくしたところで画質に問題が無かったからです*8。また画素数も現在のように高くないため、画素数をあげればあげるほど細部の描写力がよくなっていっていたのです。
 しかし 1/2.7 型 200 万画素 CCD が登場したあたりから、そろそろ画素ピッチに余裕が無くなってきました。もちろん製造技術の発達に伴い、画素ピッチの縮小がそのままノイズ量の増大や飽和信号量の低下に比例はしませんでしたが、画質が低下しはじめたのは事実でした。それでもユーザはそんなことしったこっちゃありません。それまでデジカメメーカーは「画素数が多ければ多いほど画質が良くなりますよ」とさんざんユーザーに宣伝していたのですから当然のことでしょう。
 結果的に、実のない「画素数=画質」の概念のまま、メーカーは画素数をあげ続けざるをえなくなりました。そうしないと売れないからです。そして現在、ひどいものでは 1/2.7 型 400 万画素や 1/2.4 型 500 万画素など、画素数だけが一人歩きした CCD だらけになってしまっています。
 これに対して警鐘を鳴らしているのが、この日記のタイトルにご登場頂いており、またかつて PCUSER で「デジタルカメラ進化論」を連載していた文月凉氏です。彼は雑誌の連載やポータルサイトdcex などでメーカーを向こうに回して画素ピッチの縮小化=極小画素に反対し続けてきました。その姿勢に感銘を受け、彼に心酔する者も少なくありません。……ただ問題は「極小画素のデジカメは買うな!」と主張する極端な人が居ることなんですが……*9
 ただし「画素ピッチの極小化=画質の低下」という概念もまた真ではありません。画質には CCD の他にレンズや画像処理エンジンが関わってきます。そもそもレンズが悪ければ CCD に届く光の質が悪くなりますし、画像処理エンジンがヘボければいくら CCD からの信号が良質でも最終的に出てくる画質は低下します。逆に言えば CCD の信号は最初の素材でしかなく、それを料理する画像処理エンジンの出来具合によって画質は大幅に左右されるのです。ですから、画素ピッチはあくまで「画質を決める 1 要素」でしかない事も覚えておいて下さい。

 

*1:普通は CCD。Canon では CMOSNikon では LBCAST などが使用されることもある。

*2:正確には松下製 1/1.76 型

*3:画素ピッチの他にはレンズ、A/D 変換ビット数、JPEG アルゴリズム、ノイズリダクションアルゴリズム、その他画像処理アルゴリズム。最近では画素ピッチよりもアルゴリズムによるところが大きい(DIGIC なんかはまさにそう)。

*4:カメラ分かる方:とりあえず中央重点測光でのプログラム AE を想定して下さい。

*5:もう一つにレンズの分解性能の問題がありますが割愛。

*6:それだけじゃないですけどもちろん。

*7:主流は 1/2 型 80 万画素や 2/3 型 140 万画素だった。

*8:それ以外にもレンズや画像処理エンジンがまだ未発達で、いくら画素ピッチが大きくてもそれを処理する周辺部分のおかげで全体的な画質が悪かったということもあった。ただしそのころのデジカメでもダイナミックレンジ(明暗差の許容範囲)だけは現在より広かったと言える。

*9:そういう人にデジカメ購入相談をすると、画素ピッチだけでデジカメの全てを決めつけるので近寄ってはいけません。そうすると操作性が悪く AE が安定していない COOLPIX 5000 や、ホワイトバランスが赤っぽくなったり光学ファインダにレンズ鏡筒が見えてしまう PowerShot G3、動作の遅い C-4100Zoom を買わされたりします。画質はいいんですけどね、どれも。