マクロのワーキングディスタンス(「マクロに強い」とは何か)。

 デジカメのパンフレットに載っているスペックには、誤解されやすいものや『この表記だけでは分からんやん』と言ったものが多いです。たとえばこないだお話しした「画素数≠画質」なんかがそう。
 そういうスペック表記で常々おかしーなーと思ってるのがマクロの表記です。いわゆる「レンズ前〜cmまで近づける」と言ったような書き方。こういう書き方をすると、1cm まで近づける FinePix S7000 よりも レンズ前 9cm までしか近づけない CAMEDIA μ-30 のほうが「マクロが弱い」と思われがち*1。しかし本当にそうでしょうか。また本当に近づければ近づけられるほどいいことなんでしょうか。
 というわけで実験です。使用機材はこの日記では毎度おなじみ RICOH Caplio G4Wide。このカメラのマクロは非常に強力で、ズームのワイド端(ズームを引いた状態)で 1cm まで、テレ端(最も望遠側)で 4cm まで近づけられます。

 被写体はこの日記らしくフィギュアで。食玩ガンダムSEEDラクス・クラインです。
 ちなみにここで使用する画像は全て、マルチ測光で露出補正 +1EV、オートホワイトバランス、ISO400 固定(手持ちのため)撮影してます。EXIF は残してます。
 ではとりあえずもっとも撮影距離が短くなるワイド端で 1cm まで近寄ってみましょう。
■ワイド端。

 いきなりレンズで影ができてしまいました。*2。あまりに近づきすぎたからです。特に前髪あたりがモロに影がでてしまっています。
 ではズームした状態ではどうでしょうか。
■テレ端。

 スペック表どおりテレ端にして 4cm 離れてみました。不自然な影などはできていません。しかも拡大率としてはほぼ同じです*3。これだけでも、「1cm まで近づけるスーパーマクロ(ワイド端限定)」は運用上の問題を無視したカタログスペックのための数字だということがわかります。
 さらにこの二つを見比べてみると、テレ端で撮ったものに比べ、ワイド端で撮ったものには妙なパースがついているのがわかります。これは焦点距離が短くなればなるほど遠近感が強調されてパースがダイナミックになる」というレンズの性質が作用しているからです*4
 これについてもうちょっと実験してみます。
■テレ端とワイド端。

□ワイド端□□テレ端□
 上の 2 枚はズーム位置をワイド端とテレ端とに設定し、ハロも一部フレームに入れつつラクス嬢の顔を撮ったものです。ハロの大きさはだいたい同じくらいになるようにしています。
 こうして見るとまずワイド端時のラクス嬢の顔の拡大率がかなり小さくなり、対してハロは妙に大きく写っています。これもワイド端での遠近感によるもの。ちなみにこのハロ、完全にレンズに接触しています。
 それに対しテレ端では、ラクス嬢の顔とハロの対比は比較的自然になっています。

 
 さてここから「マクロに強いデジカメ」を探す際のカタログスペックの見方です。コンパクトデジカメのマクロにおいて重要なスペックは「どこまで近づけるか」ではなく、「どの範囲まで写せるか」*5「どこまでズームできるか(焦点距離はいくらか)」です。
 前者で言えば OLYMPUSPENTAX などの一部の機種で撮影範囲を記載しているくらいなのであまり見ることは無いかもしれません。後者はカタログや Web などに「ズームのミドルポジション」とか「42mm〜90mm 相当時」とか「Tele端のみ」とか「焦点距離:10.2mm」*6とか「全域マクロ対応」とか書いてあるのでそれを参照するといいでしょう。
 一番いいのは、ズームのテレ端までマクロをサポートしている機種を選ぶことでしょう。レンズから被写体までの距離を「ワーキングディスタンス」と言いますが、このワーキングディスタンスがある程度とれて、かつ大写しができる機種。上でスペック表にリンクした機種は、だいたいどれも『影ができるほど近づかなくてもいい』などの運用面を含めて「マクロが強い」と言えます*7

 

*1:実際雑誌などではマクロの最短撮影距離だけで優劣を決めているケースが多いです。特にデジタルガジェット系雑誌。こういう雑誌に限って「Nikon のデジカメはマクロが強い」という定評を真に受けて COOLPIX5400 や 3100 や 2100 などのワイド端限定マクロ機をして「マクロが強い」と評価しちゃうケースが多い。

*2:余談ですが俺はフラッシュは焚きません。マクロで使い物になるフラッシュを積んでいるコンパクトデジカメなど皆無ですし、仮に出来たとしても貧乏くさい絵になっちゃうからです。確かに暗所などで手ぶれしやすい場面は多いですが、フラッシュを焚くくらいなら俺は潔く ISO 感度を上げます。ポートレートならなおさら。TTL 調光が行えるデジタル一眼レフならともかく、コンパクトデジカメのフラッシュなんて手ぶれ補正の代わりみたいなもんなんで(日中シンクロやスローシンクロは除く)。ヒカル小町でもあれば別ですが……。

*3:ちなみに公称値で 13mm × 17mm の範囲が画面一杯に写せるそうです。

*4:その為、一眼レフ用マクロレンズ焦点距離は 50mm 以上になっている。ちなみに 50mm という焦点距離は、人間の眼の焦点距離を 35mm 換算した時のものとほぼ同じと言われている。

*5:ちなみに一眼レフ用レンズのスペック表には必ず「最大撮影倍率」という項目があります。これは「レンズを通した像の大きさと実際の被写体の大きさとの比率」です。これは 35mm フィルムを使用したときの比率で、この比率が 1 倍(等倍)の場合、被写体とまったく同じ大きさの像がフィルム面に写ることになります。通常マクロレンズは等倍になるように作られています(EF コンパクトマクロレンズなどを除く)。

*6:焦点距離。35mm 換算時焦点距離で 60mm 相当。

*7:とりあえず、ワイド端限定でしかマクロ撮影ができないくせに「スーパーマクロでござい」と堂々とカタログに載せている某フィルムメーカーはまともなマクロ機能を載せるべき。あと最近の Nikon のエントリー機とか。